Innovator
May. 8, 2017
医師の信念と情熱でメンバーの心を燃やし続ける
オンライン診療で医療をもっとカジュアルに
[豊田剛一郎]株式会社メドレー 代表取締役医師
オンライン診療を支援するオンライン診療アプリ「CLINICS(クリニクス)」は、診察予約・問診、ビデオ診察、クレジットカード決済、薬・処方せんの配送までを、インターネットを通じてワンストップで提供するものです。患者はスマートフォン、医療機関はブラウザでシステムを利用できます。
事業を立ち上げて1年となる現在、契約医療機関数はのべ350を超えます。契約の意図としては、遠隔診療が向いている患者さんに対して診療の質を上げたい、患者さんの待ち時間を減らして満足度を高めたい、先進的な取り組みにチャレンジしたいといった声が聞かれます。どのような背景があるにせよ、よりよい医療を提供するツールとして使ってもらえたらうれしいです。
禁煙治療では対面のみの外来より治療効率が高い
遠隔診療というと医療過疎地での活用をイメージする人が多いようですが、通信やIT機器が普及していないエリアではサービスの浸透は難しいのが実情です。遠隔診療が広まってこなかった1つの理由がそこにあると思います*。
そんな背景もあって、我々は遠隔診療という言葉ではなく「オンライン診療」という言葉を使っています。「CLINICS」に関しては今のところ都市部での利用が多く見受けられます。利便性が高いことから患者の反応は非常に良くて、試しに一度使ったら手放せなくなったという人もいますね。
禁煙治療や生活習慣病の治療にも向いていて、特に禁煙治療に関しては対面のみの外来より約1.5倍治療効率が高いという結果も出ています**。通院の負担を減らしつつ、タバコをやめたいビジネスマンに使ってほしいですね。
また、小さい子どものいる働くお母さんの利用も多いようです。喘息やアトピーの子どもは定期的な症状チェックが必要ですが、仕事の忙しさから状態が少し落ち着いたからと受診をやめてしまうケースが多いんです。そういう患者に対してオンライン診療は医師へのアクセスを維持するための有効なツールになります。
また、精神科の医師からは周囲の目を気にせず受診できるようになる、外出の負担を軽減できるということで、患者とよりつながりやすくなったという意見も寄せられています。
科を超えて聞かれる医師の評価としては、患者の満足度が上がることで患者さんとの関係が良くなり、かえってコミュニケーションが増えたという話も聞きます。また、医師の判断で対面診療を織り交ぜるので、対面とオンラインでメリハリがつき、治療プランの精度向上、診療の質の底上げが期待できるといった意見も寄せられています。
オンライン診療を活用して、会社ぐるみで健康増進に取り組む
健康志向の高まりから、オフィスでもウェルビーイングの流れが出てきたことはいいことです。特に禁煙は「あいつがやめたから俺もやめる」というふうに波及しやすいものなので、そういう意味でも職場での取り組みは効果が見込めます。オンライン診療を活用して、会社ぐるみで禁煙対策に取り組むケースも出てきました。
生活習慣病やうつにしても、個人や家庭の単位でなく、職場の単位で治療や回復をサポートしていく体制の構築が望まれます。特にうつは会社に言いにくい空気もありますし、就業時間と診療時間が重なると対面の受診がしづらいので通院が継続しにくくなってしまう。その点、オンライン診療なら仕事の休憩時間に医師とコミュニケーションを取ることも可能です。
前編でオンライン病気事典「MEDLEY」について話しましたが、病気や治療法などの網羅的な医療情報を入り口として、予防医療、ヘルスケアまで広げていけたらいいですね。広げていく方がより多くの人に接してもらうことにもなり、医療がもっとカジュアルなものになります。そのための1つの手立てがオンライン診療だととらえています。
職域単位で医療に向き合うことで、例えば健康診断で要再検査とされても受診しない人は「カッコ悪い」と言われちゃう、それくらいになれば面白いですね。オンライン診療を使えば、時間がないとか面倒だとかいう言い訳が通用しなくなるわけですから。それくらい医療が身近になることで、健康を維持しようという主体性が生まれてくるのだと思います。
株式会社メドレーではオンライン病気事典「MEDLEY」、オンライン診療アプリ「CLINICS」、医療介護の求人サイト「JobMedley」、介護施設の検索サイト「介護のほんね」の4事業を展開している。代表取締役社長は瀧口浩平氏、代表取締役医師は豊田剛一郎氏。2009年6月設立。社員数は151名。うち医師7名。(2017年2月現在)
http://www.medley.jp/
CLINICSのトップページ。
https://clinics.medley.life/
* 従来、遠隔診療は離島・へき地にいる患者以外は原則的に禁止とみなされてきたが、2015年8月に厚生労働省が遠隔診療の適用範囲を広く解釈する通達を発表し、事実上の解禁となった。
** 禁煙外来に4回以上通院した患者は対面のみの診療では51パーセントにとどまるが、遠隔診療も組み合わせると75パーセントに増えたという。(診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書、および本調査における、治療完遂者と途中中断者の割合(2016年12月時点)より)
オフィスでチームメンバーと談笑する豊田氏。社内は風通しのよい雰囲気があふれている。
医師としての経験が
課題に立ち向かわせる
私は医師・コンサルを経てメドレーに参画していますが、他のメンバーもさまざまな業界から集まっています。IT、業務システム開発、銀行、コールセンター、官公庁、アパレルなど、バックグラウンドはバラエティ豊かです。
世の中のためになることをやりたい、それがダイレクトに感じられることが楽しいと思う人がこの会社に集まっているんです。私の仕事の一つは、会社としてどんな課題に取り組めば本当に世の中のためになるのか、医師としての信念や経験を元に医療界の将来を見据えた方向性を出していくことです。解くべき課題と解決への道筋を考えるのに、医師をしていた経験は当然ながら大きく役に立っています。
また、医療現場で多くの課題をじかに経験していたので、それを解決しようと仕事に燃えるんですよね。働くためのガソリンが要らないんです(笑)。例えばコンサル時代は高額な報酬や長期休暇といった見返りがガソリンになりがちですが、今はいらない。やっぱり自分がやりたいことだし、自分が本当に燃えるところで活動していますからね。社内には自分で燃えることができる人もいるし、火があれば自分もどんどん燃えることができる人も入る。いずれにせよ、私が社内の消えない火として推進力を生み出し続けたいと思っています。
「凡事徹底」「中央突破」「未来志向」が人材を呼ぶ
最近はみんなに医療当事者意識が芽生えて、医療バックグラウンドを持たない人もどんどん医療従事者っぽくなってきました(笑)。ビジネスだけでなく、解決するべき医療の課題は何か、納得できる医療をみんなが自発的に考えるようになってきたことは組織の成長につながっていると思います。
うちの会社のバリューは「凡事徹底」「中央突破」「未来志向」の3つです。プロフェッショナリズムで当たり前のことをしっかりやる、卑怯なことはせずに本質的な課題を中央から解決する、常に未来のための仕事であると。そういうメンバーが揃っているし、入ってくるメンバーもそんなバリューや会社の文化に共鳴してくれる人が多いです。
もちろんサラリーは大事ですが、他の会社で働いたらもっと高給を取れるだろうというメンバーが参入してくれているんですよね。そこはそういうビジョンやミッション、メンバーの熱意に惹かれる部分もあるのでしょう。
メンバーが全力で仕事できる環境を作ることがマネジメント
私は会社を取りまとめる立場の1人ではあるけれども、「管理する」という意識はあまりないですね。またマネジメントは相手によって、自分の成長によって、会社のフェーズによって変わりますし柔軟に考えています。そもそもちゃんとマネジメントできているのかわからないのでメンバーに聞いてください(笑)。
マネジメントの一つとして自分が大切にしているのは、社内にも社外にも想いを伝え、方向性を示し続けることです。メドレーは何をしている会社なのか、なぜやっているのかをきちんと発信する。それを通じて、メドレーで働くメンバーに、何のために働いているのか、自分たちの仕事がどんな変化を起こしているのかを感じてもらいたい。
また、メンバーが全力で仕事できる環境を作ることも強く意識しています。メンバーの意思決定を奪うような命令はほとんどしません。目指すゴールや目的を正確にすり合わせたら、あとはおおよそのプロセスを示してメンバーに任せ、何かあったら責任は取るというスタイルです。もちろん取り返しのつかないことにならないように定期的にチェックしたり、コミュニケーションを密に取りますが、できる限り仕事の方向性で迷ったり、こちらにお伺いしたりしてほしくない。自分が走っている道が正しい方向であることを伝え、気持ちよく仕事にまい進してもらいたい。
これは前職のマッキンゼーのスタイルに似ているかもしれません。管理・監督に終始するのでなく、みんなが生き生き働く体制を整えることで、個々のメンバーが自発的に成長し成果をあげてくれるというのが私が感じたマッキンゼーの文化でした。
メドレーには創業社長の瀧口を始め、個性豊かな優れた経営陣やマネジャーが揃っています。それぞれが個性を発揮しながら、チームを引っ張り、組織として強くなることが重要です。そのためにメドレーの方向性を社内外に広く発信して、みんなが同じ目的を共有しながら、元気にやりがいをもって仕事ができる環境を作ることにこれからも力を注いでいきます。
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(2017.2.10 港区のメドレーオフィスにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo:Kazuhiro Shiraishi
オフィスでチームメンバーと談笑する豊田氏。社内は風通しのよい雰囲気があふれている。
豊田剛一郎(とよだ・ごういちろう)
1984年生まれ。医師・米国医師。東京大学医学部卒業後、脳神経外科医として勤務。聖隷浜松病院での初期臨床研修、NTT東日本関東病院脳神経外科での研修を経て、米国のChildren’s Hospital of Michiganに留学。米国での脳研究成果は国際的学術雑誌の表紙を飾る。日米での医師経験を通じて、日本の医療の将来に対する危機感を強く感じ、医療を変革するために臨床現場を離れることを決意。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて主にヘルスケア業界の戦略コンサルティングに従事後、2015年2月より株式会社メドレーの代表取締役医師に就任。オンライン病気事典「MEDLEY」、オンライン診療アプリ「CLINICS」などの医療分野サービスの立ち上げを行う。