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ドルビーの
新たなチャレンジが始まる

人と設備を1カ所に集約、R&Dの高速化を図る

[Dolby Laboratories]San Francisco, USA

  • 素早く新技術を開発するエコシステムを作る
  • アイデアから実現までを最短でつなぐ環境を構築
  • 映像分野での新たなチャレンジの芽が生まれる

ドルビーラボラトリーズ(以下ドルビー)のオフィスは、もともとサンフランシスコ内4カ所に点在していた。それぞれ5ブロックは離れており、社員たちはシャトルバスで行き来した。そこで人と設備をSoMA地区1カ所に集約。16階建てのビル内に、アイデア創出からその具現化までを完結させることで、最短最速の製品化を図る。

最新の録音スタジオやシアターが完備されているのはいわずもがな。目下、オフィス裏手では次世代上映システム「ドルビーシネマ」が建設中だ。250席のスクリーンは一般公開されず、同社の技術を高めるラボラトリーとして映画祭などのスペシャルイベントや社内向け試写室として使用される予定。実験中の映像技術もすぐシアターに持ち込まれる。

「バーチャルリアリティラボ」は、あらゆる音響環境を再現できる部屋。同社ヘッド・サイエンティストのポピー・クラム氏によれば「カーネギーホールでバイオリンを弾いたらどう聞こえるか、そのときドルビーのツールがどう生かされるか、すべて忠実に再現できます。360度、映像投射装置のおかげでビジュアルまでそのまま。この部屋にいると自分がどこにいるのか、わからなくなります」

研究者同士のコミュニケーションを促す工夫も随所に見られた。執務スペースはオープン、社員を隔てるパーティションは存在しない。CEOすら席を持たず、毎週違うフロアを選び、社員に交ざり働いている。

建物外観。上階にいくにしたがってセットバックしていく構造。隔階にテラスがあり、屋外で仕事をすることも可能になっている。

売上高:9億6740万ドル(2015年度)
純利益:2億2720万ドル(2015年度)
従業員の国籍:22カ国
(全従業員の40%が国外出身者)
http://www.dolby.com/

  • レコーディングスタジオ。ドルビーの技術デモを行う環境が整っている。

  • 音声圧縮技術のテストなどに使われるスタジオ。ドラムセットのほか、ギターの録音、ボーカルの録音などが行われる。

  • ショールーム。フルスペックのシアターがある。

  • 3階マーケティング部門のミーティングスペース。わざとドアをつけず、またハーフスタンディングの作りにして、コラボレーションを誘発している。

  • エントランスそばのドルビーギャラリー。壁面に大型ディスプレイを設置し、ドルビーの最新技術を披露する。

  • 3階の執務スペース。2週に1度金曜が休みになる「ナイン・エイティ・ワークスケジュール」を11年前から導入している。

開放的なコミュニケーションスペースと
クローズドな空間を両方用意する

階段の吹き抜けは「社員を歩かせる」意図から。「エスプレッソマシーンのような嗜好品は、社員同士の交流や関係を深めることを狙い、戦略的にビルのいたる所に設置しました」と、バイスプレジデントのヴィンス・ヴォロン氏。歩く機会が増えるほど、それだけ社員同士の接触が生まれ、アイデア創出のトリガーになる。

エントランスフロアからカフェテリアとフィットネスセンターまで延びる階段状のラウンジは、ワーカーから“ザ・ヒル(丘)”の愛称で親しまれる。木材の質感が、空間に温かみをもたらしている。ランチタイムには社員たちが座り込み、食事をしたり談笑したりする姿が見られた。ここはドルビー社員の憩いの場だ。

とはいえ、すべての空間がオープンなわけではない。「私たちの脳に処理できる情報量には限りがあります。うるさい環境は、クリエイティビティやイノベーティブであることに大きな影響を与える」(クラム氏)。おおむね静謐と言えるオフィスだが、ケイブ型のワークスペースやライブラリーも用意し、必要に応じて音をシャットアウトできる設えに。音に敏感な社員が多い、音響技術の会社ならではの配慮である。

小さなワークスペース。オープンな空間を避けて、ここで業務に集中する社員も。

  • 10階のライブラリー。司書が常駐する。外には広々としたテラスがあり、コーヒーやスナックが用意されている。

  • 音声圧縮技術のテストなどに使われるスタジオ。

  • キッチンは各階に設置。コラボレーション・エリアの近くに置くことで、従業員同士が一緒に休憩できるようにした。

  • ニューヨーク出身のアーティストグループStudio Studioの作品。前を通る人の動きによって色が変わる。

  • スペクトルを基調にしたアート作品。見る角度によって模様が異なって見える。

地域コミュニティと会社の
交流の場としても機能するオフィス

ドルビーは、アートとサイエンスのバランスに重きをおく企業でもある。地元アーティストの作品や、同社のテクノロジーを用いたニューメディアの作品など、至るところに展示されたアートが社員の創造性を刺激してやまない。

例えば、こんな作品。ドルビーの製品をテストしているのは特別な聴覚を持つ社員たち。彼らの耳は「ゴールデンイヤーズ」と呼ばれる。このエピソードを、あるアーティストは600以上の耳を様々な色に塗り分けたポップアートに表現した。こうしたアートを中心に顧客やパートナー企業、近隣の住民、社員の家族・友人を案内する館内ツアーもしばしば企画されるという。

1階エントランスを入ってすぐの「ドルビーギャラリー」は6〜8週間ごとにデジタルメディアやオーディオ分野のアーティストによりキュレーションされ、社内外にドルビーのテクノロジーを発信するスペース。「ドルビーとは視覚とサウンドの会社であると、ここを訪れた人にすぐ感じてもらいたかったのです」(ヴォロン氏)

最短最速で製品を開発できる環境

ギャラリーの壁にはイタリアから輸入した大理石を使用。水を用いて削ることで、オーガニックな風合いに仕上げた。対照的に建物内部はコンクリートや自然石、木材を使用。

またラボ外側はカラフルだが内側は暗く、しかしオフィス内のアート作品は意図的に「明るく生き生きしたもの(bright and vibrant)」にと、各所でコントラストが強調されていた。これらはどれも、普段暗いスペースで働く多くのエンジニアを、色でインスパイアする試みだとか。

音響だけでなく革新的な映像技術の開発にも注力しているドルビー。最短最速での製品化を実現するために「オフィス自体が新しい技術を生み出すためのエコシステムになっている」とクラム氏は語る、この動きは業態変化をも強く後押しするものになるだろう。

コンサルティング(ワークスタイル):自社
インテリア設計:BugID、SM&W、ノヴァ・パートナーズ
建築設計:ゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッド、WNRSスタジオ

text: Yusuke Higashi
photo: Hirotaka Hashimoto

WORKSIGHT 10(2016.10)より

バイスプレジデント
エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
ヴィンス・ヴォロン

ヘッド・サイエンティスト
ポピー・クラム

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